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芸能と志望校選択の関係について



 近年、今までに増して、明治大学様の好評を聞く機会が増えたと思います。もちろん、それらは明治大学様の総合力が評価されたものだと思いますが、他校出身の筆者からみれば、明治大学様は、広報面で有益となる点を卒なく押さえられているようにもみえます。
 明治大学といえば、「ビートたけし」こと北野武様の芸能人としての知名度が絶大で、知らない人はいないのではないかと思うほどです。もちろん、北野武様の活躍と大学を結びつける事が、大学の知名度の向上に有益となるであろう事は、直感的にも分かりますが、やはり、こういった部分で卒のない明治大学様は卒業生の協力を得る取り組みを怠っていないようです。明治大学様のホームページをみても、卒なく連携されています。


「北野武氏へ明治大学特別卒業認定証ならびに特別功労賞を贈呈」2004年9月、明治大学Webサイト:https://www.meiji.ac.jp/koho/
information/pr/topics/topic040908.html


「◆特別企画 北野武氏座談会-知られていなかった明大時代を語る-」2004年10月、明治大学Webサイト:https://www.meiji.ac.jp/koho/
information/pr/meidaikouhou/2004/546_4.html


「明治大学校友・北野武氏(2004年特別卒業認定)が、フランス政府のレジョン・ドヌール勲章を受賞」2016年10月28日、明治大学Webサイト:https://www.meiji.ac.jp/koho/
news/2016/6t5h7p00000m8d0y.html




[果たして、芸能など大学での教育とは若干異なる分野の方に協力していただく事は広報として有効か、という点について]

 芸能など大学での教育とは若干異なる分野の方に協力していただく事も、感覚的には広報として有効であるのは明らかだと思います。
 感覚的には、そうですが、経済学という観点では、どうなるのでしょうか
 経済学でよく出てくるゲイム(ゲーム)理論の概念にミニマックス戦略という概念があります。ゲイム理論の場合は相互に作用する選択機会を持った相手がいるので複雑ですが、相手の選択を無視すると分かりやすくなります。例えば、相手の選択によって自分の利得が影響を受けるのではなく、全くの偶然や見込み違いによって自分の利得が影響を受けると仮定します。(もちろん、相手が偶然に委ねて、数学的には類似となる仮定もゲイム理論にはあります。¹ )
 簡単にいうと、ミニマックス戦略とは、2つのくじ引き所に各2種類のくじがあって、そのいずれかを引いてなんらかの景品がもらえるとすると、とても良い景品と全く魅力のない景品の組み合わせのくじ引き所よりも、さほど良い景品がなくとも、多少は満足できる景品が保証されている方を、人々は選ぶであろう、という仮定です。
 景品だと、「どうしようか」と迷うかも知れませんが、これが「1年分の給料」であれば、「くじ次第で1,500万円か100万円」という組み合わせよりは、平均としては低くても「くじ次第で900万円か600万円」という組み合わせを選ぶ人は多いと思います。人々がミニマックス戦略を取るであろうというのは、一種の仮定に過ぎませんが、以外にも現実に即した仮定かも知れません。
 ここで、このミニマックス戦略を使って、進学希望者や父兄、高等学校教員が、大学を比較する場面を考えてみたいと思います。
 仮に、ある進学希望者が、A大学の卒業生の教養を平均で2から8だと見積もっていたとします。卒業生の教養というのは大学を選ぶ際に重要な要素となるのは疑う余地がない部分だと思います。進学希望者も教養を高めてくれる大学に進学する事は利得となるでしょう。
 したがって、ミニマックス戦略を用いた進学希望者の判断というのは、どうなるでしょうか。試しに、B大学という別な大学と比較する場合を考えてみましょう。B大学は追加の情報がない状態で3から6だと見積られているものだと考えます。

最小最大
A大学に進学28
B大学に進学36

 この場合、予想の平均値はA大学が5、B大学が4.5ですから、ミニマックス戦略を考慮しない場合の合理性な選択はA大学になりますが、ミニマックス戦略ではB大学を選択する事になります。
 ここで重要なのは、選択の決定は最低の予想にのみ依存していて、最大の予想は(ミニマックス戦略上は)関係がない、という事です。
 ここでもし、平均の教養(5)をもつA大学卒業生を進学希望者が知ったとします。進学希望者が、そのA大学卒業生が、概ね全体の4割を占める様な類型であったと考えた場合、もともと10割を「最低2」と見積もっていた見積もりは、A大学卒業生を知った事で修整される必要が出てきます。つまり、情報がないので「最低限2」と見積もっていた4割の部分を5という値に書き換える必要があります。

A大学卒業生を知った後の最低予想 = 0.6 ✕ 2 + 0.4 ✕ 5 = 3.2

 この見積もりを使ってもう一度表を作ってみます。

最低最大
A大学に進学3.26.8
B大学に進学36

この場合、明らかにA大学に進学した方が良い、という結論になります。
 ところで、もし、進学希望者が平均以下のA大学卒業生を知った場合は、どうなるでしょうか、例えば平均以下の4.6の教養をもつA大学卒業生を進学希望者が知ったとします。この場合の最低の見積もりは、やはり4割が実際に知った人物のものに置き換わりますので、

A大学卒業生を知った後の最低予想 = 0.6 ✕ 2 + 0.4 ✕ 4.6 = 3.04

最低最大
A大学に進学3.046.64
B大学に進学36

やはり、平均以下でも、情報のない状態での見積もりの一部が、実際の情報に置き換わるだけで、A大学を希望する事が経済学的合理性を持つ事になります。
 上記の計算は、多少、違和感のあるものかも知れません。これはミニマックス戦略という特殊な仮定によるものです。
 ここでは、数学的に厳密な証明などは試みませんが、簡単な言葉でいえば、この想定で、進学希望者の最低の見積もりが現実の誰かと一致していて、なおかつその誰かが実際に最低であって、最低の教養の人間は他にいないとしたら、その人物1人以外の誰でも知名度が増すことによって大学への期待値は高まる事になります。ただし、それは各人の人が想定する「最低」であって、的確かどうかは分かりませんし、想定外に値の低い人もいるかも知れませんので、厳密とはいえないかも知れないという点にはご注意願います。
 また、ここでの考察は、「ミニマックス戦略が一般的であれば」という条件付きで有効です。経済学でも政治的駆け引きの分析などではミニマックス戦略というのは、意外と現実に即している様にみえる部分もあります。実際には、現実にミニマックス戦略によって行動を決定している事例の統計などがあればよいのでしょうが、手元にないので、あくまで1つの話題にとどめたいと思いますが、直感的にみても、学校や卒業生が、芸能などの世界の方々を紹介したり、応援して知名度を高まるというのは、進学希望者に対して良い影響を与えるものだと思います。



[志望校決定の規模]

 こういった、安定を好む人の性質はリスク選好度という概念で、経済学では扱われます。しかし、このリスク選好にという考え方は厄介で難しいものです。ただ、数学を離れて考える事にすれば、そんなに難しいものではないかも知れません。
 つまり、千年経っても、そうは変わらない貴金属の価値等を基礎に仮説を形成する場合とは異なり、人間の人生などは複雑です。つまり、今の問題と将来の問題では確実さに差があります。(これは数学ではありません。形式科学というよりは、経験科学です。² )複雑な因果関係を持つ人生の中では、4年後の50%は現在の50%ではありません。例えば4年以内に大きな社会変革が起きて、現在、役立つと思われているものが、そうでも無くなるならば、4年後は25%かも知れません。確実性が4年毎に50.1%になるのだとすると、今現在の選択の価値は、2回目以降の4年毎の選択では32年分に相当する事になります。

2回目の選択から8回目の選択の和は1回目に及ばない。したがって1回目を上回るために8期32年分を要する。

 したがって、進学志望者の選択というのは繰り返しゲイムの様にはならず、単純なミニマックス戦略に近いものになるのだろうと思います。



[余談]

 法政大学神奈川県校友会横浜支部(横浜法友会)では、台風の影響で延期となった落語会「若手噺家3人の会」を11月8日に開催します。




 また、神奈川県校友会横浜支部(横浜法友会)会員の春風亭かけ橋さんは、1月20日にもの神奈川での寄席に出演されます。







[註釈]
¹ T. C. Schelling, Strategy of Conflict,1960, pp. 175-186.
² 日本学士院賞、恩賜賞受賞者の原昌宏名誉博士から「課題解決はどちらかというと高度な学問より、自分の経験と幅広い知識(浅くてもよい)から生まれるアイデアが重要」という御教授をいただいて、数学に頼り過ぎるのではなく、経験則なども大事ではないか、と筆者は思った次第。






2023年10月24日 
中村寿徳 





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