日本
トーマス・シェリング
経済学研究会







【ノーベル賞委員会によるノーベル賞授与の解説】


ノーベル賞委員会のサイト
(https://www.nobelprize.org/prizes/economic-sciences/2005/press-release/)
より一部抜粋。
Schelling’s work prompted new developments in game theory and accelerated its use and application throughout the social sciences. Notably, his analysis of strategic commitments has explained a wide range of phenomena, from the competitive strategies of firms to the delegation of political decision power.

【訳】シェリングの業績は、ゲーム理論の更なる発展を促し、社会科学のあらゆる分野で、その活用と応用を加速させました。とりわけ、教授の戦略的関与の分析は、企業の競争戦略から政治的決定力の委託に至るまで、極めて広い範囲の現象を解説しています。

 2005年にトーマス・シェリング教授はノーベル賞を受賞しました。実際の所、シェリング教授は1991年には米国経済学学会の会長に就任しており、以前から経済学の世界ではシェリング教授の業績は良く知られており、2005年のノーベル賞受賞は遅すぎるものと感じる経済学者も少なくはなかったと思います。

 私見ながら、これはシェリング教授の著書に1983年付けで追加した序文1に、従来の経済学が例外として扱わなかったり、別な分野の問題だと誤認していた様な問題に挑戦した経験が述べられている様に、分野的な分類が難解であったり、その内容自体も倫理観など哲学的な内容を含み難解である問題に挑戦して来た事が、なかなか世に真価を認められなかった一因だと思われます。実の所、シェリングの研究というのは、経済学の中でも相当に難解なものに分類されると思いますし、これはまた誤解も生みました。例えば、人種問題に関して白人と黒人が分離せずに居る状態を国策的に成立させようとしても上手く行かないという問題に関して、分離を容認する発言が「人種差別である」と誤解されたりもしましたが、シェリングの答えは「黒人だって、大多数の白人に囲まれた生活は快適ではないだろう」、「彼らは自分達の社会を持つ為に自ずから出て行くだろう」2というもので、寧ろ個人の自由や民族の個性を認めるものとも取れるものです。

 その難解さと、広い分野に跨がる捉え難さは、シェリング教授の研究の真価が世間に認められる事を阻害しましたが、近年、着実に認知されて来ている様にも思われます。経済学や政治学に関係する方には「学際的(interdisciplinary )」という言葉を良く耳にする様になったと感じている方も多いと思います。この「学際的」という言葉を代表する学者が、正しくトーマス・シェリングです。

 例えば、「空港保安」などは、シェリング以前の経済学では、「極めて特殊な専門分野である」と考えられるか、「生産性に直接結び付かない虚業であり、経済学の対象でないか、無視しても問題ない」として、経済学の有益な研究対象と考えられる事は少なかったと思われますが、現在では、空港保安やモラルハザード、生命倫理、気候変動などが経済学の重要な研究課題となりつつあります。この草分けがトーマス・シェリングの研究です。3



1 Choice and Consequenceの“Preface”。
2 A conversation with Thomas Schelling part 3(Youtube: https://www.youtube.com/watch?v=nsYyfWdLeQY 2019.5.12確認)
3 近年この様な問題を扱う学問として行動経済学が注目されているが、その行動経済学の第一人者と目されるリチャード・セイラー(2017年ノーベル経済学賞受賞)は、著書Misbehaving: The Making of Behavioral Economics(W W Norton & Co Inc; Reprint, 2016)の中で、シェリングを“an early supporter and contributer to what we now call behavioral economics”(私達が現在行動経済学と呼んでいるものの初期の支援者であり、貢献者)としている。




2019.5.12 掲載 中村寿徳(研究会呼掛人)
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