【話題】



【話題】学生の方々に知っておいてほしい事。 〜 駐オーストラリア大使や外務省経済局長などを経験された山上さんのお話 〜


 筆者の知り合いが十年以上のお付き合いだそうで、『南半球便り 駐豪大使の外交最前線体験記』 (文藝春秋企画出版)という書籍を昨年、出版された山上信吾さんという方を招いての勉強会を企画されたので行って来ました。

山上慎吾前駐豪日本国特命全権大使

 山上さんは、東京大学法学部卒業、外務公務員採用試験に合格して、外務省に入省された方です。学生様方は、現行制度の方をよく知っていらっしゃるとは思いますが、かつては、いわゆる「外交官試験」とよばれた試験がありました。これは現在では、総合職(旧国家一種相当)や専門職(旧国家二種相当)に統合されています。
 入省後は外務公務員枠で入省されただけあって、海外での業務を積極的にこなされ、また、警察庁に出向されて県警警務部長などの経験もされた後、2018年には外務省経済局長、2020年には駐オーストラリア特命全権大使を務め、外務省退官後、2024年現在TMI総合法律事務所特別顧問を務められていらっしゃいます。
 学生の皆様には、外務省の仕事について、少し聞いてお伝えしようかと思ったのですが、話を聞くなり、そういう気はしなくなりました。というのは、私達はオーストラリアという国に就いて聞き知っている様に思えて、実は、ほとんど知らないという事に気付きました。
 まず、山上さんが駐オーストラリア特命全権大使に赴任される前に、書店に寄ってオーストラリアに関する本を探したのだそうです。非常に大きな書店であったにも関わらず、オーストラリアに関する本は3冊しかなく、その内2冊は同じ人が書いたものであったそうです。
 対して、資源や食料の多くを供給してくれる国として商社などは、重点的に優秀な人事を配置しているそうで、結構な邦人がオーストラリアにはいらっしゃるようです。何でも在留邦人は世界の国として3番目に多く、米国に次ぐ2番目の国となりそうな勢いだそうです。
 興味深かったのは「オーストラリアの料理は美味しい」のだそうです。これは好みもあるのかも知れませんが、比較的世代の新しい移民の方々が多く、古くから移民が入植している国の様に、元々の料理、イタリアンならイタリアでの本来の味が失われてしまって、まるで違う料理になっているという事が少ないのだそうで、本場の味付けの料理が食べられるのだそうです。
 他にも、気候は欧州諸国の首都などの様に「寒く」なく、むしろ暑いとの事ですが、シドニーなどまで行くと、湿度が低い事もあって、過ごしやすいとの事。全般的にいって「居心地の良いところ」だそうです。
 奥様からもお話は聞きましたが、オーストラリアでも日本のご婦人は和服でパーティ等に出席されるそうで、オーストラリアの人達にも和服は好評だそうです。どうも、これは、洋服とは違ってドレスコードをあまり気にする必要がないので、その点、和服は楽であるようです。
 その他、色々とお話を伺いましたが、詳細は山上大使の著書、『南半球便り 駐豪大使の外交最前線体験記』 などに譲るとして、特に学生の方々に知って欲しいのは、山上さんが「最近の外務官僚は海外勤務をしたがらない。せっかく、外務官僚になったのだから、外交官の仕事に、もっとやり甲斐を持ってほしい」との事をおっしゃっていた点でした。
 筆者は、健康上の問題もあり、徹底して出掛けるのが嫌いでしたが、やはり、健康な若い方々に取って外交官や、民間でも企業の海外駐在員というのは、就職を考えるのに一考の価値のあるものだと思います。(特に国家公務員総合職は30歳まで受験できますし、聞く限り、外務省に関しては語学などの長所があれば、学歴や採用に関わらず重要な仕事を任されたというような話をよく聞くように思います。)
 山上大使の駐豪日本国特命全権大使在任中の職務の一端をTBSテレビが伝えていますので、下記にリンクをご紹介します。
 「日本大使」とありますが、正確には「特命全権大使」で、この職務は、日本国政府の使者ではなく、天皇の使者という立場になります。(以前、他の大使が日本国政府の印である桐紋ではなく菊の御紋を使用している事に関して批判的な意見を見かけた事がありますが、天皇の使者という立場上、皇室の御紋を使わざるを得ません。)
 山上大使は、現在、外務省を退官して、これまで以上に書籍の執筆に注力されていらっしゃり、来月にも新刊を発表するそうです。不思議と、研究関係以外の事務官でも陸奥宗光の研究で歴史学者として名を知られた岡崎久彦氏など、官僚から学者として知られるようになる人も多いように思います。これについては、主観的ではありますが、やはり、世界を観る、という点では中央省庁には、学校の図書館とは比較にならない高度な情報があり、少なくともその分野の情報という意味では相当なものだと思います。筆者個人の見解としては、大学の工学系などでは民間企業で先駆的な研究をされた方々の知識を学校に導入する試みは熱心にされていますが、いわゆる「天降り規制」のせいでしょうか、現実の外交などに携わった高級官僚の知識を学校教育に取り込もうという努力は、近年下火であるように思え残念です。

打ち上げでは、込み入ったお話も。(向かって左が山上大使、右は筆者。)



【余談:「あまり聞かない大学だなあ」と思いつつ教授職を引き受けたら、関西では有名校だった知人。】

 山上さんの出版活動をご紹介して下さった山上さんの旧知の方は、筆者も以前から存じ上げている方で、企業の研究職を経て、関西にある公立大学の教員をされていた方です。なぜか、不意に、今まで聞いた事がなかったと思って「教授は関西に何かご縁がありましたか」と聞いてみると、「無かった。だから経済学部の教授を頼まれた時に『どこの学校か』と思った」との返事で「その学校の経済学部は関西では有名ですよ」とお伝えすると「そうらしいね。教授に誘われてから知った」との事。やっぱり、といいますか、関西のしっかりした学校も関東では知られていません。大学の教員の就活などは、空きのある学校にタイミングよく就職するのが大事で、また、要求されるものも多種多様で、なかなか学校の求める人と一致しなかったりする事も多いと聞きます。教員の就職など希望する学生の方々は地方の公立大など良く知っておいても損はないかも知れません。





2024年4月15日 
日本トーマス・シェリング経済学協会 中村寿徳 


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